7 オツベルと象

■あらすじ
 農場の経営者オツベルは稲の収穫・脱穀作業の監視に余念がありません。そこへ迷い込んできた白象をオツベルはうまく欺して作業を手伝わせ、挙げ句に鎖で繋いで象小屋に閉じ込めて、食べ物もろくに与えずにこき使います。最初は働くことを楽しんでいた白象もだんだん痩せ細り働くのが辛くなり、最後の力で仲間に手紙を書いて赤い着物の童子に託します。白象のことを知った山の象たちが一斉にオツベルの農場にやって来て、小屋をなぎ倒しとうとうオツベルをくしゃくしゃに潰してしまいました。助け出された白象は、「ありがとう」と寂しく笑います。

■みどころ
 1926年「月刊 月曜」1月号(創刊号)に掲載されています。数少ない公表作品の一つだけに、賢治の思いがたくさんつまっているように思えます。
 白象は、仏教の世界ではお釈迦様の生まれ変わりとして大切にされています。仏教信仰の厚かった賢治ですので、法華経の教えを込めた「法華文学」として読むこともできるでしょう。最後の白象の寂しい笑いが何を意味するのか、読んだ人それぞれに解釈はまかされるのでしょう。
 「じっさい象はけいざいだよ。」と語られているように、労働とか資本家の搾取とか、質屋の息子に生まれてお金に苦しむ人の姿に心を痛めてきた賢治ですから、「なめとこ山の熊」のように社会を風刺しているという視点で読むこともできるでしょう。
 このお話は一人の牛飼いがものがたるという形式を取っています。入れ子にした意味が何なのか、最後の一行、「おや、 、川へはいっちゃいけないったら。」という謎めいた言葉とともに、読んだ人を奥深い世界に誘おうとしているような不思議な読感の残る作品です。

■合唱劇「オツベルと象」作曲:吉川和夫
 上演:合唱団じゃがいも(第42回定期演奏会 2015.11.29山形市民会館大ホール)
 とやま世界こども舞台芸術祭2016では字幕付で上演されています。出演:合唱団じゃがいも(2016.7.30富山県民会館ホール)