宮沢賢治と「農」
農民芸術概論綱要について
宮沢賢治は、1926年、それまで4年間教鞭をとった花巻農学校を退職し、自宅から少し離れた別宅に「羅須地人協会」を設立し、商家の倅である自らが農業を起こし、近隣の農家の青年とともに農業と芸術を学ぶ活動を始めました。農学校での化学などの農業の勉強会の他にも、レコード鑑賞会や自らチェロを弾きながらの管弦楽演奏、また地元に伝わる農民芸能、鹿踊りの稽古など、農業とは関係のないような活動を盛んに行いました。
賢治が職をなげうって身を投じた少し奇妙にも見える生活運動のバックボーン・綱領となったものが、「農民芸術概論綱要」です。賢治が、羅須地人協会を設立するに当たって、自らの信念と理論を箇条書き的にまとめたものです。
そこには、化学や天文学の科学理論から、美学、文学の芸術理論、医学、心理学、哲学から仏教・キリスト教を超えた宗教理論などなど、万能人の賢治の持つ広い知識が披瀝され、その上に滔々たる「ほんとうの幸福」に至る道を求めて農業に生きるという確固たる信念に基づいた意思が表明されています。まさに、「畢竟ここには 宮沢賢治一九二六年の その考があるのみである(綱要の最後の一文)」なのです。
ゴーシュ・ファクトリーは賢治の精神に共感し、農に取り組む中から、人間としてのささやかな幸福感を得られるような、そんなヒーリング・ライフを発信していきたいと思います。
農民芸術概論綱要 全文
宮沢賢治と「音楽」
宮沢賢治作品の合唱劇(オペラ)について
「合唱劇」は、いくつかの声部に分かれて楽曲を歌ってハーモニーを奏でる普通の合唱とは違って、楽曲化された物語を、登場人物はソロパートを歌いながら役を演じ、他の合唱団員も合唱パートを歌いながら移動したり動作をしたりして、演劇的な舞台演出を行い公演するもので、オペラやミュージカルの合唱版のようなものです。
宮沢賢治作品をオペラや合唱劇にして上演されるようになったのは、舞台音楽を多く手掛けた作曲家の林光さんが1980年代に「オペラ セロ弾きのゴーシュ」を作曲し、オペラシアターこんにゃく座が上演したことが契機となったようです。以後、林さんやこんにゃく座の座付の作曲家である、萩京子、吉川和夫、寺嶋陸也さんも加えて、いくつもの作品がオペラ化されこんにゃく座が全国津々浦々で上演する一方で、林さんを始めとする作曲家が山形県で活動するアマチュア合唱団「合唱団じゃがいも」のために「合唱劇版」でいくつもの作品を合唱劇化していきました。それらの作品は、全国のアマチュア合唱団が合唱劇に取り組むきっかけとなり、今では、全国各地で宮沢賢治の合唱劇にお目にかかれるようになってきました。30年以上にわたり数十作品が合唱劇化され、音楽を通して、現代に生きる私たちが宮沢賢治を肌で感じることのできる格好の芸術作品となっています。
こうした活動は、宮沢賢治イーハトーブ賞においてもこんにゃく座(本賞)、合唱団じゃがいも(奨励賞)が顕彰されています。
合唱劇 セロ弾きのゴーシュ