■あらすじ
淵沢川の川上にあるなめとこ山には、たくさんの熊たちが棲んでいました。その山奥深で淵沢小十郎は熊撃ちをして暮らしていました。小十郎は、熊を撃ってその毛皮を町の荒物屋に売りに行き、少しのお金とごちそうをいただいて帰ってくるのでした。
あるとき、小十郎が山で熊を撃とうとしたところ、二年待って欲しいと熊が言い、そして丁度二年後に、その熊は小十郎の家の前で血を吐いて倒れていました。
そんなある冬の日、気乗りのしない出発をした小十郎は、大きな熊に襲われてしまいます。月夜の晩、熊たちはに山の上に置いた小十郎の亡骸を中心に輪になっていつまでも動きませんでした。
■みどころ
なめとこ山という人里離れたところにある熊たちと人間を包み込む大きな「いのちの輪」。それは,賢治作品に見られる森の中の共生社会。人は熊を殺し熊は人を殺す。でもそれは大きな「輪」の一面にすぎず、小十郎は「因果」といいながらも熊のいのちを大切にいただき、熊もまた小十郎を敬います。このようなありようは、縄文の時代から受け継がれてきたいのちの営みであり、賢治はそれをイーハトーブの源流にあるものとして描いているのかもしれません。
小十郎が荒物屋で毛皮を買いたたかれる姿は、近代経済社会で搾取する側とされる側を想起させます。語り手も「しゃくにさわってたまらない」と言っており、賢治が実家の質屋で見た農民の姿に重ね合わせて、社会の矛盾を突いているようにも見えます。でも、ごちそうとお酒に満足して山の大きな輪の中に戻っていく小十郎の姿は、そのような対立軸ではなく、それすらも許容する壮きな力が存在するようにも感じさせてくれます。
■合唱劇「なめとこ山の熊」作曲:林光
上演:合唱団じゃがいも(第37回定期演奏会 2010.12.18山形市中央公民館ホール)