■あらすじ
小さな谷川の底に蟹の兄弟とお父さんが棲んでいます。
五月、兄弟は川底から水面を見上げて、つぶつぶの泡が流れたり魚が行ったり来たりしたり光が差したりしているのを見ています。すると突然、鉄砲弾のようなものが飛び込んで来て、魚をさらっていきました。それは鳥のかわせみでした。
十二月の夜、兄弟は水面の向こうの月を見ながら互いに吐く泡の大きさを競い合っていました。お父さんが早く寝るように催促しに来たとき、黒い円い大きなものが水面に落ちてきました。それは、やまなしでした。兄弟とお父さんが追いかけていくと、やまなしは木の枝にかかって止まりました。親子の蟹は家に帰りました。
■みどころ
1923年(大正12年)4月8日の岩手毎日新聞に掲載されました。
小学校の教科書にも掲載されて広く知られる作品ですが、森の中の静かな川底の風景に心休まる気持ちになる一方で、誰もが「クラムボンって何?」という疑問を抱かざるを得ません。そこに命や人生についての重大なメッセージが込められているように感じるからでしょう。何度読んでも、小さな川でありながらも深い深い底へと引き込まれていくような気がします。
この川底の二つの風景は、「私の幻燈」の二枚として語られます。賢治作品には、最初と最後に語り手が登場したりして、幻燈会や紙芝居のように枠の中で物語が展開するという構成をとるものが多くあります。「注文の多い料理店」も「春と修羅」も序文がそのようなフレームを提示しています。それがイーハトーブという舞台の共通性を感じさせてもくれます。
■合唱童話「やまなし」作曲:吉川和夫
上演:合唱団じゃがいも(第36回定期演奏会 2009.12.19 山形市中央公民館ホール)