12 月夜のでんしんばしら

■あらすじ
 ある晩、恭一が鉄道線路の横を歩いて停車場のあかりが見えるところまで来たとき、突然線路左側のでんしんばしらの列が北の方へ歩き出しました。その向こうでもでんしんばしらの列が軍歌を歌いながら進んでいます。でんしんばしらは次々と恭一を見ながら通り過ぎます。するとせいの低い顔の黄いろな電気総長が号令をかけながら「友達になろう」と言って恭一の手を握ると恭一はからだがびりりっとして倒れそうになりました。電気総長は電信や電気の自慢話をしていましたが、汽車が来るのを見ると、あわてて掛け声をかけ、でんしんばしらはぴたりと止まってふだんのとおりになりました。電気総長があかりのついていない客車の下に入ると客室は明るくなり、汽車は走り去っていきました。

■みどころ
 トーマス・エジソンが電球や蓄音機を発明したり、グラハム・ベルが電話を発明したのは19世紀後半。このお話が書かれた時代は、水力で起した電気を町や家庭に届ける電気会社が全国各地に設立されるなど電気や電信が最新技術として全国に普及していた時代でした。それだけに、電線を支える電信柱が社会を変える大きな力を持っているようで、得体の知れないものとして軍隊行進にも見えたりするのかもしれません。恐ろしいようで、力尽きてフラフラで歩く電信柱や仕事一徹な電気総長など、時代の流れに翻弄される人々へのやさしい賢治のまなざしが感じられます。

■歌曲「月夜のでんしんばしら」は、宮沢賢治が作詩作曲して農学校の生徒たちと歌っていたと言われています。