■あらすじ
「ツェ」ねずみは、自分の失敗や不運をいつも他人のせいにして、他人の親切を感じることなく文句ばっかり言っていました。戸棚から金平糖がこぼれているのをいたちが教えてあげたのに、先にアリが来て手出しができなかったので、いたちに「自分のような弱い者をだました、償え、償え」と食ってかかります。また、柱がわざわざ冬支度の道具の在りかを教えてあげたのに、「ツェ」ねずみはそれを勇んで運んでいるときに坂から落ちたのを根に持って、柱に向かって「あんなこしゃくな指図をしたから痛い目にあった、償え、償え」と詰め寄ります。みんな、{ツェ」ねずみに話しかけないようになりました。あるとき、鼠とりが、何度も「ツェ」ねずみに餌を食べさせて逃がしてやりましたが、餌が腐っていたため「ツェ」ねずみは「鼠とりが欺した、償え」と言うと、鼠とりが怒ったので弾みで鼠とりの入口が閉じ、とうとう「ツェ」ねずみは人間に捕まってしまいました。
■みどころ
宮沢賢治の童話でねずみを主人公にしたものに「ツェねずみ」「鳥箱先生とフゥねずみ」「クンねずみ」の三作品があります。ほかにも、「セロ弾きのゴーシュ」ではねずみの母子が登場します。ねずみは、私たちが生活する住居にも侵入しますし、畑にも頻繁に姿を見せます。人間とは関係の深い動物ですが、屋内外を問わず、その小さな身体に似合わす、私たちの生活を混乱させるような悪事を働いて、人間にとっては小憎らしい存在です。
そんなねずみの生態のけしからぬ面をユーモアたっぷりにお話にしたのが「ツェ」ねずみなのでしょう。
でも、読んでいるうちに「ツェ」ねずみが、ねずみの姿を借りながら、人間のことを描いているようにも思えてきます。私たちの生活でも自分勝手で他人の好意を無にするタイプの人にかき回されることがあります。人と人とが助け合わなければならない社会で、そういう人とどう付き合っていくのか、問われているような気がします。