14 気のいい火山弾

■あらすじ
 ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、ベゴ石と呼ばれる大きな黒い石がありました。卵の両端を少し平たく伸ばしたような形で、まわりの角のある余り大きくない黒い石たちがからかっても一度も怒ったことがありませんでした。仲間の石どもだけでなくて、おみなえしの花や蚊までがベゴ石を馬鹿にし始めました。
 ところがある日、背の高い四人の人たちがやって来て、よく整った火山弾の典型だと言って、きれいな藁やむしろでベゴ石を包んで荷馬車へのせて、大学の地質学教室に運んでいってしまいました。

■みどころ
 イーハトーブの舞台で火山と言えば岩手山であり、その噴火によって噴出された大きな火山弾は、そのすそ野にいくつか落ちているのでしょう。「狼森と笊森、盗森」では、その黒い岩が人間が岩手山の麓の森に入植したときのことを物語ります。石という存在の持つ時間軸の壮大さを感じさせます。蚊も花もかしわの木もそのいのちのサイクルはとても短く、石のいのちは何千年何万年にもなります。ベゴ=牛のような穏やかさはその違いから来るのかもしれません。賢治がそうありたいと願った「木偶の坊」の一つの形かもしれません。
 宮沢賢治は子どもの時「石っ子賢さん」と呼ばれるほどの石好きでしたが、地表の変化に富み鉱物に恵まれ5億年の歴史を見ることができる北上山地というフィールドがあったからこそそのような興味が生まれたのかもしれませんし、その石を通して、賢治の世界観・宇宙観は広がっていったのだろうとも思います。