17 氷河鼠の毛皮

■あらすじ
 12月26日の夜8時。ひどい吹雪の中をイーハトヴの停車場からベーリング行きの急行列車が発車しました。その一つの車両に15人ばかりの旅客が乗っていました。その真ん中に座ったのはタイチという赤顔の太った紳士で銃を持って北方での猟に向かうところ。いっぱいに着込んだ毛皮を他の客に自慢しますが、相手にされません。
 ところが、夜が明けると列車は急停車し、20匹ばかりの白熊たちが乗り込んできて、毛皮を捕りあさるタイチを連行しようとしますが、もの静かな黄色の上着の青年が突然人質を取って、タイチを取り返し、白熊たちに列車を動かさせます。

■みどころ
 真冬の夜に北に向かう列車は「○○急行殺人事件」のような、エキゾチックなミステリーの香りがします。賢治作品には珍しい冒険小説の雰囲気に満ちた作品です。でも、お話の舞台となるベーリング地方は、賢治の生きた100年くらい前まで、西方からシベリアを渡って黒テンやラッコのけがわを得て西欧の国々へ高く売りさばくために国営会社を創って乗り込んできたロシアと日本を含めた周辺国がしのぎを削ってきた場所で、このお話もその歴史的事実に基づいているのです。白熊も含めて多くの野生動物が乱獲によって絶滅の危機に瀕していることは、現代にもつながる問題です。
 人が獣を獲り、人が獣から仕返しに合うという点では、「なめとこ山の熊」の話を思わせます。そして、この作品でも、黄色の上着の青年が猟に向かうタイチを弁護する言葉の中などに、人と自然のかかわりを単純な対立関係に納めずに時間と空間を超えた大きな視点で捉える賢治の世界観がうかがえるような気がします。