■あらすじ
ペムペルとネリの兄妹は、畑で野菜を作りながら、二人で暮らしていました。二人は畑にトマトを植えました。レッドチェリーという名のトマトの苗を5本植えると、そのうちの1本には黄金色に光る黄色のトマトが実を付けました。
ある日二人は、野原の遠くの方から聞こえてきたとてもいい音色に誘われて、音のする方へ手をつないで走っていきました。だんだん近づくと、7人ほどの馬に乗った人たちや白い四角な箱のようなものを四五人の黒人が曳いているいるのに出会いました。二人がその列についていくと、大きな町に出てその平らな一角に大きなテントが張ってあり、灯や絵看板が掲げていて、隊列はその中に入り、テントの前には町の人たちがたくさん集まっていました。町の人たちが順番に金貨を出して中に入っていくのを見たペムペルとネリは、自分たちも入りたくなりました。ペムペルはネリをその場に待たせて、一目散に家に戻り、黄色のトマトをいくつか摘んで戻りました。二人がテントの中に入ろうとして、黄色のトマトを二つ出すと、番人が怒って二人を追い払い、そのトマトを投げつけたのでした。
そんな悲しいお話を語ってくれたのは、町の博物館に飾られている蜂雀なのでした。
■みどころ
サーカスが見たくて畑の黄色のトマトを差し出して追い払われた兄と妹。他愛のない出来事のようでいて、二人の絆の深さ、二人が社会と隔絶して生活する姿、そこに胸の中を締め付けられるような哀切の思いがこみ上げてきます。蜂雀が「可愛そうなことをした。」となかなか最後まで語ろうとしない設定が、なおさらこの兄妹への興味を駆り立てます。宮沢賢治の作品であることを知って読んでいる多くの読者が、この兄妹の姿に賢治と妹のトシを重ね合わせて読み進めていくことでしょう。町にやってきたサーカスに心躍らせる人たちを描いていますが、賢治にとっても、子どもの頃、花巻の秋祭りで家の近くの空き地にサーカスがやってきて、トシと二人で様子を見に行ったというような出来事があったのかもしれません。
童話の仕立てでありながら、黄金色に輝くトマトが金貨として受け入れられないことに、賢治自身の理想の世界が人々に理解してもらえないという賢治自身のもどかしい気持ちが込められているのかもしれません。
■音楽劇「黄いろのトマト」作曲:萩京子 上演:合唱団じゃがいも(第24回定期演奏会 1997.10.11山形市民会館大ホール)