■あらすじ
天の川の西の岸に小さな二つの星がありました。その小さなお宮にはチュンセとポウセという双子の童子が住んでいて、二人は夜になると銀笛を吹いていました。
ある朝、二人は西の野原の泉に出かけました。そこで大烏が泉の水を呑んでいると、蠍がやって来て烏と喧嘩を始めました。チュンセとポウセは、喧嘩で傷ついた烏を介抱し、蠍を家まで送っていきました。ところが、蠍の家があまりに遠くてポウセが疲れて倒れてしまいました。そこに稲妻が現れて二人をお宮のところまで戻してくれました。
ある晩、二人が笛を吹いているとほうき星がやって来て、二人を旅に誘い出しました。ところが、天の川の落口まで来ると、突然二人を吹き落してしまいました。二人が海に落ちてひとでに取り囲まれ、二人が困っているとそこに海蛇が現れて、海蛇の王さまのところへ案内しました。王さまは竜巻を呼んで二人を天上に帰してやりました。二人は、ほうき星のこともひとでのことも空の王様にお許しを願いました。
■みどころ
賢治が童話を書き始めたのは、盛岡高等農林学校を卒業した1918年の中頃と言われ、夏頃にはトシや清六に書き上げたばかりの童話を読んで聞かせていたようです。その時の作品が「蜘蛛となめくじと狸」とこの「双子の星」でした。宮沢賢治の童話の世界の原点があるのかもしれません。盛岡で法華経に出会ってその教えに感銘を受けた時期でもあり、この作品には「法華文学」としての賢治作品の側面が色濃く出ています。ここに描かれているチュンセとポウセという双子の童子の有り様は、どんな性根を持った他者であっても、それが自分に危害を与える者であっても、等しくそれらを受け容れて困っていれば助け、すべての者に幸福が訪れることを願ってやまないという慈悲の心にあふれる姿です。
また、初期の作品だけに、賢治のその後の多くの作品に影響を与えています。「星めぐりのうた」や自分の行動を悔いてやまない蠍の姿などは、「銀河鉄道の夜」に受け継がれているように見えます。