40 かしわばやしの夜

■あらすじ
  木こりの清作が野原で畑仕事をしていると柏林の方から赤いトルコ帽をかぶった画描きが現れて、自分は柏の木大王から呼ばれて柏林に来たので一緒に行こうと清作を誘います。清作は柏の木たちに脅かされながらも画描きに付いて柏の木大王の所に来ました。
 夏の夜を迎えた林の中では、柏の木たちが大王の前で順番に好き勝手な歌を歌い始めました。画描きは順に賞を与えていきます。でも、歌の中身が清作をからかうものばかりで、清作もこらえきれずに怒りだしました。その時、林の奥からふくろうの群れがやって来て大乱舞で加わろうとしましたが、森の夜が更け、空から霧が降りてきてしまいました。柏の木たちはみんな踊りのままの形で化石のように固まってしまいました。ふくろうたちは飛び去り、画描きも沼森の方へ歩いて行ってしまいました。

■みどころ
 童話集「注文の多い料理店」所収の一品です。夏の一夜に森の中で柏の木たちが歌合戦で大騒ぎをしているというお話は荒唐無稽そのものではありますが、何やら理想郷としてのイーハトーブの一つの究極の姿なのかもしれないとも思えてきます。木を伐る人間と伐られる柏の木との対立があるはずなのに、それを包み込むように鳥や森や月や霧が現れて、歌い踊る姿はいかにも楽しそうです。
 画描きという存在は、森の外からの闖入者にも見えながら、歌合戦の仕切り役で柏の木たちをそそのかし、一夜をおおいに盛り上げるのですが、宴が終わると覚めたように去って行きます。謎めいた存在ではありますが、何やら賢治本人にも見えてきます。

■音楽劇「かしわばやしの夜」作曲:林光 上演:合唱団じゃがいも(第23回定期演奏会 1996.10.19山形市民会館大ホール、第27回定期演奏会 2000.10.14山形市中央公民館ホール、第39回定期演奏会 2012.12.15山形市中央公民館ホール) 合唱団じゃがいもの委嘱作品第1号。柏の木に子供たちが扮し、大人も子供も一緒になって楽しめる合唱劇として、全国各地で上演されている。合唱団じゃがいもも再演、再々演まで行っている。