
■あらすじ
虔十はいつも縄の帯をしめて笑って杜の中や畑の間をゆっくりと歩いているので、子供らは虔十をばかにして笑っていました。ある時虔十は家のうしろの野原に杉苗を700本植えました。七・八年たつと九尺くらいの杉林になりました。虔十は百姓に言われて杉の下枝を打ちました。明るくがらんとした杉林には、次の日から学校帰りの子どもらが一列になって林の間を後進し始めました。虔十はそれを笑いながら見ていました。ところが、林の北側の畑の持ち主の平二が、杉を伐れと言って、伐らないと言った虔十に殴りかかりました。虔十が抵抗しないので平二は帰りましたが、間もなく虔十も平二もチフスで死にました。
それから20年たって、家が建って村も随分変わりましたが、虔十の杉林はそのまま残っていました。ある日村出身のアメリカの大学教授が訪れて、昔の林の林の脇に立つ虔十の姿を懐かしんで、この林を「虔十公園林」と名付けて保存するよう提案し、林は今でも生き生きとして本当の幸いが何かを教えてくれるようです。
■みどころ
いつもはあはあと笑っていて、人から「足りない」と思われるような虔十の心が杉林を生み出し、それが子どもたちや村の人々の心の中に染み込んでいく姿を、20年の時間の流れを挟んで、家族愛や平二との喧嘩を織り込みながら、心にしみわたる珠玉の作品となってます。
虔十の名が賢治と似ているように、賢治は自分がこうありたいと願う「木偶の坊」の姿を虔十になぞらえているように思われます。時間を超えて輝き続ける虔十公園林は、賢治の理想の世界の一つの形なのでしょう。
■オペラ「虔十公園林」(合唱劇版)作曲:吉川和夫 演出:山元清多
上演:合唱団じゃがいも(第28回定期演奏会 2001.11.10山形テルサ)
透明なメロディが流れる中透き通った傘が拓いたり閉じたり。虔十の一途な姿が心を打ちます。