35 北守将軍と三人兄弟の医者

■あらすじ
 北守将軍ソンバーユーは、北方の砂漠で30年の長い間馬に乗って敵と戦って、とうとうラユーの町に戻ってきた。ところが、両足が鞍にくっつき鞍が馬にくっつきどうしても離れない。おまけに草が顔や手やいちめんに生えてしまった。そこで三人兄弟の医者が治療した。長男リンパーは普通の人の医者、次男リンプーは獣医、三男リンポーは草木の医者。三人の不思議な治療の結果、将軍と馬は離れ、草も取れてすっかり元通りになった。宮殿に呼ばれた将軍は、大将の任命を辞して山に入り姿が見えなくなった。みんなは将軍は仙人になったと言ってお堂をこしらえた。

■みどころ
 舞台は北方騎馬民族の襲来に悩まされた古代中世の中国を思わせ、賢治作品の中では西域での仏教にまつわるようなお話とも一線を画した作品。作品が発表されたのは1931年で賢治の晩年であるが、賢治の時代にはまだ馴染みの深かった漢詩の韻文調で書いたものに手を入れているため、七五調の語感が根強く残り、馬が闊歩するようなリズミカルな読感があって心地よい。
 こうした舞台設定は、仏教の教えには収まらない賢治の世界の広がりを感じさせる。ソンバーユー将軍の超然とした姿は老荘子の世界を想起させるし、人と動物と草木が一体化するというモチーフも、賢治の世界の一つの形かもしれない。数少ない賢治の発表作品であることを考えると、将軍が庶民の医者によって30年間の戦争のくびきから解き放たれる姿を世に問いたかったのかもしれない。

■合唱劇「北守将軍と三人兄弟の医者」作曲:萩京子
 上演:合唱団じゃがいも(第42回定期演奏会 2015.11.29山形 2016.1.31東京)