■あらすじ
軽便鉄道が東から走って南から来る本線の線路に合流するところに、本線のシグナル柱のシグナルと軽便鉄道のシグナル柱のシグナレスが少し離れて立っていました。シグナレスは木製で貧弱な自分の姿に引け目を感じて、金属製で新式の立派なシグナルに憧れていても何も言えずじっとしているだけでした。シグナルはそんなシグナレスを心の底から愛し、求愛の言葉を投げかけ続けます。意地悪な本線付の電信柱が諫めようとするのも聞かず昼も夜も愛の言葉を語ります。それを見ていた近くの倉庫の屋根が二人をかわいそうに思い、魔法をかけて夜空の星の下で二人を隣り合わせにしました。二人は楽しい星めぐりを楽しみましたが、気がついてみるとそれは夢でした。
■みどころ
岩手軽便鉄道と東北本線が合流する花巻駅の近くの信号柱を見て、賢治はこんなロマンチックなお話を書いた。生涯禁欲的な生活で自らを律したイメージが強い宮沢賢治には珍しいラブストーリー。しかし、シグナルとシグナレスの間には、決して近寄ることの出来ない柱としての定めや貴賤の差で引き裂こうとする周囲の目など、育ちや家柄のために成就できない悲恋は、ロマンスの陰に常につきまとう人間社会の影の部分を表しているのかもしれない。
シグナルとシグナレスが夢の中で手を取り合うように星空をめぐっている光景は、アメリカのミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」の天文台でのデートシーンを思い起こさせ、ロマンチックな賢治の世界を楽しむことができる。
■合唱劇
合唱劇ではなく二人オペラとして書かれた「オペラ シグナルとシグナレス」(作曲:萩京子)がある。
冒頭の「ガタンコ ガタンコ シュウフッフッ」は合唱団じゃがいもも愛唱する軽快なソング。