
モリーオ市職員キューストは、ある日飼っていた山羊が逃げたので探しに行くと牧童のファゼーロが野原で捕まえてくれました。ファゼーロは、ポラーノの広場を探しているといいます。キューストは地図を持ってファゼーロと友達のミーロと三人で探しに出かけました。つめくさの花が無数に咲いている野原を通って音のする方へ行くと、県会議員の山猫博士と地域の人たちが酒宴を開いていました。そこに引き入れられたファゼーロたちが歌で山猫博士をからかうと山猫博士はファゼーロに決闘を要求しその場は大混乱に。ファゼーロは皆の前から姿を消します。
ファゼーロを捜索する警察にキューストも事情聴取されますが、ファゼーロは見つかりません。姉のロザーロも不安な日々を送っていました。そんな中キューストは仕事で立ち寄ったセンダード市の床屋で山猫博士を見かけ、ファゼーロの居場所を問い詰めると、自分は何も知らずあの夜の宴会も事業がうまく進まずに株主たちに新しい事業の賛同が得られず酔っていただけだと言います。
3か月ほどたった9月1日、ファゼーロがキューストの役所に顔を現します。ファゼーロはセンダードの工場で学んだことを生かして、ムラードの森でみんなで工場を造り革やハムや乾燥栗を作ると言い、キューストを工場に案内します。キューストはみんなと工場のスタートを祝います。工場は3年で何とか軌道に乗り、その頃キューストはモリーオ市の町を去りました。その4年後には、誰からともなく「ポラーノの広場のうた」の楽譜が届いたのでした。
■みどころ
自然豊かなイーハトーヴォ舞台に少年ファゼーロが成長を遂げ仲間と共に産業組合を作るまでを描いています。賢治の構想した「少年小説」四部作の中の一篇です。ミステリー小説の雰囲気もあるドラマチックな展開の一方で、イーハトーヴォの野原に咲き乱れるつめくさや夜空の星などの美しい情景描写が賢治の世界に誘います。
賢治の童話の初期作品「ポランの広場」や花巻農学校で生徒たちと上演した「戯曲 ポランの広場」をベースに賢治が晩年に少年小説として書き改め、死没翌年に発表された作品です。ストーリーを追っていくと、賢治の晩年の姿がレオーノ・キューストという書記官に投影されているように思えてなりません。「農民芸術概論綱要」をかかげて羅須地人協会を立ち上げ労農運動を支持しつつ農業の実践者たらんとした賢治でしたが、治安維持法など軍国主義の足音とともに警察による事情聴取などを経て羅須地人協会は解散。賢治は病魔に冒されながらも化学肥料会社の営業で出向いた東京の地で吐血し倒れます。ファゼーロとキューストの間に吹く隙間風のようなものは、農業と賢治の間をも吹きすさんでいたのかもしれません。
■合唱劇「ポラーノの広場」作曲:吉川和夫 上演:合唱団じゃがいも(第32回定期演奏会 2005.11.5山形市中央公民館ホール、第36回定期演奏会 2010.1.24仙台市青年文化センターシアターホール《改訂版》)